◆ラテン旦那と大和撫子妻◆

ジレンマとの戦い【詐欺師Sの鉄仮面】


前回の続きです。


警備員が注意深く辺りを見渡しながら中へ入って行きました。


シーンと静まり返った事務所の中から、明らかに女の話す声がする。

私も妹も気が気ではなかった。


暫くすると、警備員がちょっと引きつった顔で中から出て来た。


妹:「どうだったんですか? 誰か居るんですか?」


警備員:「ちょっと来て下さい。。」

私も妹も分けが判らず警備員の顔を見た。


恐る恐る中へ入り進んで行くと、卓上で父が愛用していたラジカセが
大音響で、女の人と男の人が対談をしているラジオ番組を流していました。


余りの煩さに、ラジオのスイッチを消すと

“どうして行き成りこのラジオが鳴り出したのだろう?”

という疑問が沸いて来た。


M:「もしかしてタイマーか何かがついていて鳴り出したんじゃないの?」

そこでタイマーを確認しようとしたけれど、
どこにもそんな装置はついていません。


M:「それじゃ、S達が事務所を出る時に消し忘れたか?」


私:「こんな大音響を忘れるか?」


警備員のお兄さん、顔面蒼白で引きつっている。


もしかしてパパが
「お前達何やってんだぁ~!?」って、言いたかったのかな?


それか、私達に何か知らせたいのかな?

自分の存在を知らせたかったのかな?


とにかく想像だけがどんどん膨らんで行って、埒が明きません。


警備員のお兄さんは、直ぐにセキュリティーオフィスへ連絡を取っていました。

警備員:「鍵を開けて中へ入ろうとしたらですね、
行き成り部屋の中から人の話し声がし始めたので中へ入ったんすよ~。
人かと思ったら、何とラジオがガンガンに中で鳴ってまして、
いやぁ~。。。マジですっげぇ~ビビリましたよ。。。。
こんなの初めてっすよ。。。。」

パパの仕業かもね。。。。(お兄さん引き気味。。)


とにかく早い所、目ぼしい物を探さないといけない。

私と妹は引き出しに保管してある領収書、その他の書類を手当たり次第にあさりました。

ここまで来ると何か推理小説のようだわ。。。


そうつぶやいて一人で笑ってみる。


警備員:「何か見つかりましたか?」


とにかく、目に留まった領収書などを箱に詰めて、
ついでにSの引き出しの中の点検をした。

引き出しは中がごちゃごちゃで、彼女のだらしなさを物語っていた。

保管書類だって日付なんて滅茶苦茶。
何年も前の物が無造作に丸められて、唯引き出しの中に押し込められていた。


「Sの野郎、事務所の支払いは殆どどうでも良い様に放ったらかして、
自由に使い放題していたんだな。。。」


悔しさと、自分達が何故もっと強く出なかった(Sをここまで、のさばらせてしまった)
のか!という後悔の念で、居た堪れない気持ちになってしまった。


M:「今更ここで探したって、もうとっくに証拠隠滅しちゃってるよ!」

妹が悔しそうに叫んだ。



何でもっと早くに手を打たなかったんだろう。。。。


箱に詰めた書類を持って、ビビリ捲くっている警備員にお礼を言って、
実家へと帰りました。



その後母と共に書類や領収書を1つ1つ調べました。

中には母名義で母の持っている田舎の土地を担保に
父とSが強引に借金をした物もあったりしたんです。


これは母が結婚前に自分で買った土地です。
それまで借金取りに持って行かれないように、
私達は叔父に連絡を取り、早急に手配をしてもらいました。


こうやって自宅で色々調べているうちに、
私達は冷静にSの事を話し合いました。


全然連絡が取れなくなったけど、Sは一体どこに住んでいるのか?

他のお弟子さん達もはっきりとした所在地は知らないという。

電話をするとSの娘が出たりするが
母が少しでも娘の口から情報を聞き出そうと根掘り葉掘り聞くと、
その娘は怒って泣き出す始末。

そしてSの娘との電話を切った直後に、
Sが物凄い剣幕で母にTELを入れて来たりした。


S:「私の娘に何を言ったんですか!  
あの子は全然関係ないのですから放って置いて下さい!」


母:「何だか知らないけど、全て秘密だらけにしておいて
放って置いては無いでしょう!?
大体貴方、影でこそこそ何をやっているんですか?
事務所の鍵もとうとう私達に返しませんでしたね!」

このような怒鳴り合のやり取りが何度か続きました。

母:「ところでSさん、貴方ご自分の事は一切話さないけど、
旦那さんは居るの?」

この核心に触れると、Sが狂ったように怒鳴り散らし取り乱すので、
これは余りにも“臭い”ので
徹底的に究明する必要があると判断し、私達はSの身辺を洗う事を決心しました。


とは言っても、妹は出産したばかりの身。
新生児を抱えて、本来なら赤ちゃんと幸せなひと時を楽しんでいる筈なのに、
こんな忌まわしい事に振り回されて、可哀想で見ていられなかった。
案の定、妹の母乳は過度のストレスのせいで止まってしまった。

益々Sに対する憎悪の念が自分の中で、
炎を撒き散らして燃え盛り始めたのを感じた。

私の娘達も4歳と2歳です。
日中、中々思うように身動きが取れずに、どうしようもないジレンマに気を揉むばかりで、
次第にストレスが溜まって行ったのでした。

母は私達なんかよりもかなり疲れていたと思います。
Sというこの世の悪魔ともいえる女にとり憑かれた結果、
身体障害者である母に、夫が大借金を残して死んでしまったのですから。。。。



妹:「確かSはC県の○市に住んでいると昔に言っていたよね。」


私:「それじゃ、取りあえずその町の市役所に行ってみようよ。」


という事で、私と妹と母と子供達とで、車で探しながら市役所へと向かったのです。


直ぐに見つかったのですが、やはり本人ではない人に
戸籍や住民票は見せられないと言われてしまい、

私達の捜査は出だしから難航してしまった。


がっかりしして家路についた。
このままではお先真っ暗。。。




何日か過ぎて、母の兄(叔父)が田舎から駆け付けてくれて
父のお弟子さん何人かと、Sを交えて今後の事を
話し合いをしようという話を持ち出してくれた。


場所は父の事務所という事で、

出席者は皆昔からのお弟子さん達で、私は幼い頃から顔馴染みで
よく可愛がってもらった人達です。

でもこのお弟子さん達、実は既にSが裏工作で秘密会議をした際に
皆で一致団結をして話を合わせていたのでした。



緊張の面持ちで参加者が事務所に集まって来た。

その中でSは一人、来る人達にお茶を勧めたりと
いつもの“気の利きよう”で、明るく世話をしていた。

今までは有難いと思っていたその行為も
今となっては醜い上辺だけの行為としてしか、目に入らなかった。

Sは私達の姿を認めると、事務所のソファに座っている私達に思いっ切りの笑顔で、

S:「あら!Hitomiちゃん達来てたのね♪
お腹空いてるんじゃない? 鰻でもとりましょうか?」

これはいつもの奴の手なんです。鰻は私達の大好物。
そこをちゃんと心得ていて、頼みもしないのに鰻や特上寿司等を
気を利かせて出前を頼むのでした。

もうその手には乗らない!
私達はきっぱりと断りました。


全員が揃った所で、私達は丸く円を書くように着席した。


私は前もって用意していたビデオカメラのスイッチを入れ、Sのボロをこの場でさらけ出してやる!という意気込みで及んだ。
(この場では、他のお弟子さん達が見方になってくれるものだと信じていたのです。)


叔父がこの会議の進行役をする事になり、静かに話し合いは始まりました。


その中でSは、父の後を受け継いでこのまま続行する事を強く希望した。

そして自分が今まで父の変わりに出張して教えていた教室は
自分が引き継いでやる。と言い放った。


それでは誰が父の後を継ぐのか?


周りを見渡しても、“この人!”という有力なお弟子さんは見当たりません。

有力なお弟子さん達は皆、Sが入り込んで裏で父を操作した事に腹を立てたり
父とぶつかって他へ移動してしまった為でした。


こういう場になって慌てて周りを見渡せば
もう誰も居なくなってしまっていたのでした。

残ったのは頼りなかったり、癖のある人達ばかりでした。


ここで私達は、皆の前だったらSも逃げられないだろうと思い、

Sに直接旦那の存在とその職業、自宅の場所、等の
秘密のベールに包まれている核心を追求した。


Sは真っ赤に顔を火照らせて、怒りを露にした。


「何で私が今ここでプライベートな話をしなくちゃいけないんですか!!」

私も母も妹も黙っちゃ居ない。


「だってSさん、貴方私達の家庭にまで深く入り込んで色々してたじゃないですか?
誰だってどこに住んでいるかくらい聞いたっておかしくは無いでしょう?
隠す方が変じゃないですか?

それとも話せないような秘密事でもあるんですか?」


Sは益々顔を真っ赤にして、助けを求めるかのようにして
周りを見渡しながらこう泣きついた。


「私がここでどうしてこのような仕打ちを奥様達から受けなくてはいけないんですか!?
これじゃまるで個人攻撃じゃないですか!
今の話し合いと何の関係があるんですか?」


まるで私達が集団で虐めているかのような口振りです。

叔父がそこでゆっくりとSに諭した。


「Sさん、自分の住んでいる場所くらい言ったって何の損があるんですか?

それにいつも事務所に出入りしてましたよね?
ご主人はいらっしゃるんですか?」


Sはより一層取り乱しながらも周りの人間に泣きついて、
結局旦那の存在も住所も一切口を割らなかった。



業を煮やした私達が止めを刺してやろうと、一層追求の手を強めると、


もうちょっとでSの口をどうにか割らせるかも知れない!というチャンスの時に、

驚く事に、私が昔から知っていて顔馴染み、
しかもいつも父の元を慕って来ていた男弟子Tが、
脇から口を挟んで来た。


「もうこの辺にしたら良いじゃないですか!
Sさんのプライベートな事は今関係ない事でしょう!」


私は耳を疑った。

ムッカァ~~~!


このクソ親父!良く分けも判らないくせして、何余計な事ほざいてんの!?


母:「貴方は事の成り行きが良く判らないんだから黙ってて下さい!」

母は興奮して震えていた。

弟子T:「いやいや。。。このままSさんを攻撃するのは良くないですよ。
もうこの辺で良いじゃないですか。
まぁまぁ,奥さん達も落ち着いて話をしましょうや。」

周りの弟子達も皆そうだと言って頷いている。
唯黙って下を向いている人も居た。

結局は他人事、Sの被害に直接遭っていないから
私達のやっている意味が判らなかったのでしょう。



このドアホのせいで、一気に追求の手が緩ませられてしまった。


Sは心なしか脇で、ほくそ笑んでいるかの様に見えた。


私はこの会議で改めて、Sの底知れぬ強靭な精神力、
羊のような顔をしながらも同時に併せ持つ、
恐ろしいほどに厚い鉄の仮面の存在を思い知らされたのだった。

私達素人がどこまでも必死に仮面を剥がそうと思っても,
ちょっとやそっとでは容易に剥がせる物ではない。。。。。


期待していた会議が不成功に終わった今、
私達は自然にイエローページの私立探偵の項をめくっていたのだった。



続く。。。。






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